【TSL「希望」 乗船日記】 (写真旅行記 2003年 清水・下田参照)
2003年04月29日
08:00
5月連休の渋滞をものともせず、愛車を駆って、いざ清水港へ。
しゃれたターミナル前の向こう側、出港準備中のカラフルな「希望」が・・・(写真下)
駐車場にいたおじさんから乗船手続き券を手渡され、ターミナル窓口にて乗船手続きを行う。
出港までの時間、ヲタ丸出しで「希望」の写真を撮りまくる。(w
ここで、テクノスーパーライナーとは如何なるものなのか。
そんなものは、ググレ!・・・って、事はないわな!(w
私の理解の中では、つまるところ、双胴船とホバークラフトのハイブリッド船。
うぁ〜っ!!本当に良いのか!?(w
双胴船の間の空間にエアーを送り込み、船体を浮かび上がらせる事で高速性を発揮させようと開発された高速コンテナ試験船がそのおおもと。
それで、試験終了後、静岡県が東海地震の災害時に役立てようと買い取り、フェリーとして改造したのが「TSL希望」。
普段は防災活動に従事し、週末だけ清水港と下田港をフェリーとして運行している。離島航路ではないが、地方自治体が運行している珍しい航路だったりする。
隣で運行している、在来船の「駿河」とは全く違うその船影。
特に、ホバークラフトのごとき、船首と船尾側のエアーシールは異様な様相を見せている。(写真下左)
そして、高速航行のキモである、クワガタ虫の様なウォータージェットノズル。(写真上右)
高速航行に必要な推進力と、舵代わりの可動ノズルを間近に見るのはこれが始めて。
そして、そのノズルを制御する油圧ラインが結構ごっついんだよね。
「いやぁ〜、いいもん見れました〜。」とかなり興奮気味!(w
乗船開始案内を受け、車を船内に乗り入れる。
誘導されて、車両を指定の位置で駐車。
実験船時代の貨物コンテナエリアに、車両デッキと船室を追加して造られた車両デッキ。
構造上、バウランプが設けられず、ガスタービン主機の煙路が大きく張り出しており、いささか変わった車両甲板である。
その形状は、右舷サイドランプとスタンランプを繋ぐようなT字型を考えて頂ければ良いだろう。(写真下)
船首側の細い階段を昇り、船室に入る。(写真下)
因みに、災害救難船らしく、エレベーターも設置されています。
船内は全てがイス席。普通の見慣れた短距離フェリーと変わりはない。(写真下)
本日の乗船客は30名程。
皆それぞれ、空いているイスをゲットしている。
私は、伊豆半島の見晴らしに期待して、左舷窓側後部の席を陣取る。
ヒマ潰しに乗船アンケートを記入し、記念品の「希望」ペーパートイをゲットする。
折角いただいた「希望」ではあるが、オーナーの不精と不器用さからか、いまだドックにキールを置かれることなく、机の肥やしになりつつある。(www
その他にも、「希望」下敷きやテレフォンカードがあったようだが・・・・・
*今にして思えば、レア物だよなぁ・・・買っておけば良かった。
さて、いよいよ出港。
微速後退しつつ、離岸開始。
離岸時は、意外にもディーゼル機関を使用しているようだ。
港口で回頭終了と同時に、ディーゼル音が収まり、かわりにガスタービン主機音が響き渡る。
が、主機そのものは船底奥にある為と、ディーゼルの振動が消えた為、船内は意外と静か。
そして、船室最前面に設置されたデジタル速度計の数値がみるみる上昇していく。
その航走は実に静かでスムーズ。
ジェットエンジンの騒音を期待していたのだが、その意味では期待外れ。(w
港外に出るや、浮上系ファン駆動用ディーゼル機関音が徐々に高まる。
乗り慣れたディーゼル特有の振動で、何だか普通の船に戻ったような気がする。
船長よりのアナウンスがあり、本船の特徴と注意事項を述べる。
その間にもスムーズな加速が続き、速度表示板もいつのまにか60km/hを越えていた。
一般客向けであれば仕方ないけど、やっぱりノット表示も欲しいなぁ。
本日は五月晴れの上、海面は凪状態で絶好の航海日より。
但し、春霞の為か、視程は4〜5nm程度。
その春霞に、期待の富士山が沈んでいたのは残念至極である。
速力表示板は、ほぼ全速の74km/hを示している。(写真下)
船首を僅かに上げての航走は極めて静か。
時折、うねりを降り越えるのか、ピッチングでグーッとくるところが人によっては厳しいかも。
考えてみれば、空気圧で船体を浮かせているのだから、波の影響を受けやすいは仕方ないのか。
実は、これこそがTSLの欠点の一つとも言える!
後日乗った、大分ホーバーフェリーで同様な経験をした際、やっと理解した訳なのだが・・・
*このあたり、後述参照ね。
客室前部のTVモニターは、「希望」のテレビ科学番組のビデオを放映中。
比較的静かな船内だけに、うるさく感じたのは私だけではないはず。
それよりも、船首カメラとか、富士山展望カメラを設置して放送した方が良いのでは?
もちろん、防災活動時の外部監視カメラにもなると思うのだけど。
それと、ナビ画面の表示も欲しいですな。 ⇒何ともワガママな客だ事!(w
それにしても、40kt超(75km/h)の速度感が無い事、無い事。
船室が高い位置に有るためか、まったく高速感に欠ける。せっかくの速さが実感出来ない!
東日本フェリーの、今は亡き「ユニコン」では、航走中の波しぶきを見ることが出来たので、それなり
の速度感を楽しめたものだが・・・・
やがて、駿河湾を横断し、伊豆半島を横に見て南下する。
海岸線までの距離は1nm前後ではないかと思う。
流れる様な景色の変化で、TSL「希望」の速度性能がよく判る。
恋人岬の景観やら、西伊豆の山並を楽しむ。
出港50分を過ぎ、船首を左に変える。
いよいよ、伊豆半島南端の石廊崎沖を通過。
速度が低下し始め、下田港入港の時間が来たようだ。
下田港入港前、船長さんよりデッキ開放の放送がある。
殆どの乗客がデッキへ移動。
「希望」独特な、船腹一杯の幅の泡に包まれたウェーキをカメラに収める。
港内から出てきた外輪観光船が、入港する「希望」を回りこむように船尾につける。
乗客達は、下田港の景観や観光船を背景に入れての写真を撮りまくっている。
若いカップル達はカップル達で・・・ムカムカするからやめときます。(w
甲板後部のファンネルにズドンとしたガスタービン排気口が覗き、排気熱で空気が揺らめいて見える。
側には、小ぶりなディーゼル用排気管が連なる。
車両甲板下の機関室とおぼしき所から、ガスタービンの駆動音が明瞭に聞き取れる。
また、車両甲板とブリッジとの隙間やらが観察できて、車両甲板のハウスが後付けである事が良く判る。
ウィングには船長さん達が取り付き、着岸操作を行っている。(31枚目)
「希望」にはバウスラスターが無い為、船首を桟橋に直角にしてアプローチする。
ホ−サー作業が珍しいのか、隣のカップルが係留作業に関心しきりで誉めている。
いやいや、大型フェリーはこんなもんじゃないんだけどなぁ・・・(あえて声に出さず。)
3階建ての小型ビルに相当する「希望」でこれなんだから、1万トン超級の船が着岸する姿を見せてあげたいもんだネ。
下船したあと、「希望」の出港を見送る。
ウォータージェットの凄まじい水流が桟橋を洗い、大変な事に!!(w
次の目的地の土肥へ向けて車をころがすが、その前に乗船手続きを・・・
電話で当日の予約を取ろうとするが、当日予約は受け付けていないとの事!
「本日は繁忙期ですので、港でお手続き下さい。」ですと・・・ゲッ、やばかないかい。乗り損ねたら大変だぁ!
思わずアクセルを踏む足に力が入る。が、前方を走る赤いスポーツカーが我が道を塞ぐ。
直線はバビューンとカッ飛んでいくのだが、コーナーへのアプローチがメタメタ。
あげくに、センターラインを越えまくりのおっかなウン転手。
マフラーからは威勢の良い音を放っているが、後ろを走る私には全くの障害物でしか無い!(w
ウツウツとした感情を胸にしまい、ひたすら我慢の運転。orz
結局何とか、音だけ速いD坊を松崎前で追い抜く事に成功する。
『フェリー駿河』
12:20、土肥FT到着。
ターミナルの受付に行くと、13:30から受付けますからそれまで待っててね。とアナウンスボード。
そりゃナイヨ。静岡観光汽船さん。
当日予約がだめなら、整理券でも発行してチョーだい。
どこにも遊びに行けやしないよぉ・・・
ともあれ、手続き時間になるまで、ご近所のドライブインにて昼食を摂る事に。
それでも時間はタップリと余ってしまう。
どこかに出かけるのも面倒なので、港でボーッと過す羽目に。
突堤の上に腰かけ、潮風にふかれる。
五月晴れの柔らかい日差しと、穏やかな海風が何とも心地好い。
海岸線にまで突き出すような山並と、海のコントラスト・・・これまた良いんだ。
静かな港の木陰では、陸上要員の皆さん達がの〜んびりと待機中。
時折、西伊豆航路の高速船達が入出港してくる。(写真下)
聞こえてくるのは、潮騒とカモメ達の鳴き声・・・
イヤァ〜、なんとも旅情溢れる光景ではないか!!
日頃のストレスが洗い流され、気分は爽快!
乗船手続き開始が告げられ、早速手続きを済ませる。
先程まで閑散としていた港に、いつのまにやら、お客達が集まり始める。
木陰のベンチは、日差しを避ける乗船待ち客で満席状態。
駐車場には、観光バスを含めて30台前後も駐車している。
思いのほか、多くの乗船客となりそうだ。
団体客でうるさいのは御勘弁と、追加で特別室¥500を奮発する。
そうこうしているうちに、駿河湾の春霞の中から「駿河」のシルェットが浮かび上がる。
出港していく「オーシャンアロー2」とすれ違いざまに入港する「駿河」。(写真下)
急峻な岬を背景に、入港する様は結構絵になるシーンです。
白い船体に描かれたカラフルな模様は、花火をイメージしているのか、手書きの素朴なペイントに愛嬌があり、何とも可愛らしい。
船首からアプローチし、最後にフルターンでお尻を振って船尾から着岸。
そのシーンは駐車場から逐一見られる為、乗船待ちのお客さん達の注目度はバッチリ。
船に向かって手を振る子供連れの家族達、カメラを向けるおじさん達。
ここは、「駿河」乗組員さん達の腕の見せ所!
気合をこめての着岸操作は一発で決めてくれる。
のんびりとしていた先ほどとは違い、慌ただしい活気が港を埋め尽くす。
船尾ランプが開放され、車、バイクの一団が下船した後、徒歩客が下船する。
外国人パッカーや、観光客、そして地元の人々。
通り過ぎる様々な人達の姿を横目に、入れ替わりで乗船開始。
このような短距離航路も良いものだな、と感じ入る。
さて、客室はエントランスと売店を挟んで前後に2室。(写真下)
意外と造りの良いシートで、少し驚く。
そして、デジカメのバッテリー上がりにもっと驚く!!(w
しまった、さっきの待合室で充電しとくんだった。 orz
やれやれ、「駿河」船内の写真は次回の宿題と言う事になりました!
さて、気を取り直し、エントランスへ。
今時の娘さんらしい、マリンガールさんに特等席半券のステッカーを服の上に貼るように指示される。
2階の特等室は、これぞ展望室。
見晴らしが良い上、ソファーでゆっくり出来る。
これで、ミャ−ミャ−こうるさい家族さえいなけりゃ最高なんだけど!(w
あげくに、車両甲板にエンジンかけっぱなしで車を置いてくるなんて・・・あぁ、何てお馬鹿さん!大きな声でアホな会話を聞かされる。
バッテリーが上がり気味だからだとか・・・
私の偏見を裏付けるような、三河ナンバードライバーと、その愉快な家族のエピソードでした。(w
展望室前面は、傾きかけた日差しを受け、キラキラと輝く波面の駿河湾。
富士山は・・・、日頃の行いが悪いのか、霞のかなたで山影は望めず!残念!!
ウトウトしながらソファーで過ごす内に到着前の船内放送が。清水港入港を見ようと、船尾側のデッキに出る。
船尾デッキには、何故か鐘が吊り下げられており、乗船客達がテンデに叩いている。
何か由来がありそうなのだが、どなたかご存知の方がいればご教示等。
さて、清水港に入港。
ほとんど減速することなく、港内に入っていくのが意外とスリリング。日の出突堤が見え始め、ようやく減速。
車両甲板に戻り、愛車のもとへ。
日が傾き始めた港を後にし、連休渋滞の中、帰宅を急ぐ事に。
ハイテク高速船と、ローカルな短距離航路を1日で2度楽しんだ五月連休前半の航海記でした。
◇TSLのその後 (2009年3月改定)
6年前にアップする事無く埋もれていた航海記を改定しました。
TSL「希望」とその後のお話について
その後、集客率UPと観光客誘致と伊豆半島への渋滞緩和のバイパス機能を期待され、神奈川県の久里浜から下田までの試験航海が実施されましたが、それっきりで終わってしまいました。
結局、燃料費高騰と、本来の防災船としての役目を終え、TSL「希望」は引退してしまいました。
元が、高速コンテナ貨物試験船であった船を改造していた訳で、フェリー運用に無理があったのはいたし方なかったのかと思います。
また、TSL実用船として就航するはずだった「オガサワラライナー」のドタバタ騒ぎに加え、青函航路の「ゆにこん」、「ナッチャン」シリーズの撤退等々。
高速フェリーは日本では根付かないのでしょうか?
また、文中にもあります様に、浮上系の船形だけに、動揺制御を持っていなかった様な覚えがあります。
それ故なのか、欠航率も高かった印象がありました。
ローリング自体は双胴船形での固有の安定性を期待しているのでしょうが、ピッチング系制御については、「ナッチャン」の様なTフォイルとか、船尾のスポイラーが装備されていなかった可能性があります。
「ナッチャン」のウェーブピアサー自体が、動揺安定性に寄与している船に対し、浮上系のTSLではその辺りがネガティブだったのかも知れません。
そう考えて見れば、小笠原航路にTSLを就航させても、欠航率の高い「ゲロ船」扱いされていた可能性もあったと考えています。
もちろん、燃料費高騰は直接の引鉄である事には変わりないのですが。そのあたりの情報が開示されないものでしょうか。
また、どこからか、適当な大きさのインキャットの中古フェリーを買ってきて、久里浜〜下田〜焼津に導入してくれないかな?でも、失敗する可能性が高いだろうしなぁ・・・・